ワンダーアイズプロジェクト WONDER EYES PROJECT (2000〜)

センス・オブ・ワンダーを軸に、
世界の子どもたちが写し、表現、
交流する非営利のプロジェクト。
これまで世界13の国や地域で
ワークショップや展示会を開催しています。

https://www.wondereyes.org  (リニューアル準備中)

ワンダーアイズプロジェクトのこれまでを代表の永武ひかるが振り返り紹介します。

ワンダーアイズプロジェクトの始まり 

 きっかけは、2000年、撮影取材で訪れた東ティモール。ひょんなことから、現地の子どもたちにカメラを渡して、子どもたちに自らが写真を写す写真プログラムを試みることとなった。それが、始まりでした。

 東ティモールは、21世紀初“新しく生まれる国”。その期待と同時に、独立を巡る争乱で多くの家が破壊され、虐殺やおぞましい暴力事件の傷跡がありました。けれども、人々の顔は意外に明るく、何よりも、印象的だったのは、きらきらと目を輝かせた子どもたちの笑顔。それはまるで、新しい国の未来を託す希望のようでした。

 そんな子どもたちは何を見ているのだろう。取材の仕事で再訪が決まると、写真プロジェクトを立ち上げることに。日本では展示や企画運営にワークショップを手がけていた専門家たちと話し合って内容を詰め、現地の人たちに打診すると、高い関心を示してくれました。 

 レンズ付きフィルム100個を持参して、100人の子どもを対象にワークショップを開き、彼らの写した写真を日本と現地で展示しようというもの。さらに、公的な機関や国際団体から個人にいたるまで、人の輪が広がり、協力に応援が得られる。ただ、カメラの数には限りがあるし、やり方もなりゆきに任せる形で、期待と不安が背中合わせ。食べ物も学校も十分でないという状況で、プログラムを行なうことに自問自答しながらでした。

 集まった子どもたちは晴れの場にのぞむかの出で立ち。カメラを手にするのはみんな初めて。そして、出来上がった写真は、何人かのはほとんどがピンボケだったりプレていたりした。けれども、多くの写真は、いきいきとしていて、子どもたちの笑い声が聞こえてくるかのよう。自分の体くらいの鶏をぎゅっと抱く幼い子、青空をバックにバレーボールに向かって飛ぶ少年…

*写真上2枚:東ティモールの子どもたちが写した写真から

 どれもこれもみずみずしい感性にあふれた写真。焼けた家やお墓にたたずむ子など、紛争のつめ跡を残す写真もありましたが、予想以上に明るい心を映し出されたものが多かった。生きていることの喜び。そんな瞬間を感じさせてくれるような作品は、写真の原点に思えました。東ティモールで展示会を開くと、大人から子どもまで喜びの声が上がる。日本での展示は多くのメディアに取り上げられ、東ティモールを子どものまなざしで伝える機会となりました。

*写真上2枚:東ティモールでの展示会 2000年

世界13の国や地域でプロジェクト

 子どもたちにとっても、楽しみながら情操をはぐくむ機会になったのではないか。そして、この経験を活かし、ほかの国や地域でもこの試みをつづけることになりました。

 独立10周年を迎えたウズベキスタン、オーストラリア先住民地域、ブラジルのアマゾンからリオのスラム、アフリカのモザンビークやケニアの難民キャンプ、アイスランド、極東ロシア、キューバ、インドネシ・スマトラ島、ペルーアマゾン… 国内では東京ど真ん中の小学校から、横浜や徳之島、奈良や山口などでもワークショップ、展示会も各地で開催しました。

 それぞれ、さまざまなサポートや連携があり、協力しあっての活動でした。公的機関に国際団体から地元NPOやお母さんグループ、学童に交流会まで。90年代に縁のあったペルーアマゾン絵画学校も。自然環境を軸にしたものでは、WWF(世界自然保護基金)と協力したプロジェクトもありました。絶滅の危機にあるアムールヒョウ、その森の里にある学校と新潟の小学校の生徒たちが写真を写してその写真ポストカード交換。同じく森が失われ、絶滅危機の動物がいるスマトラ島でワークショップ、両国で展示イベントを開催、子どもたち同士の写真交流を行いました。生物多様性年、ペルーアマゾンでは現地WWFの協力を得て先住民の子どもたちとワークショップ。どれもこれもが単独では成し得ない活動内容となりました。

 2013年には、ブラジルのリオのスラムやアマゾン、先住民地域でプロジェクトを行いました。リオでは現地団体と協力、スラム10数カ所で写真ワークショップ、およそ200人の子どもたちが参加、日本の子どもたちともポストカード交換して写真交流。さらに2014から2016年にかけて、日本とブラジルで展示イベントを開催しました。

*写真上2枚:ブラジルのアマゾン地方ベレンと、リオのスラムでのワークショップ  2013年

スラムの子どもたちが写した写真展

 スラムの子どもたちが写した写真作品は、2015年、リオでも大規模に展示されました。折しもちょうどリオ市制450年。現地のシティズンシップ・プログラムが主体となり、会期は約2ヶ月の長期にわたりました。会場は由緒ある共和国博物館の庭園。そこに点在するように大型キューブが特別に設置され、子どもたちが写した写真が、一辺が2メートルを超えるサイズに引き伸ばされて飾られました。

 スラムとビル群が対象的な街並みや、廃車のある空き地。ブタがゴミをあさるカットもあれば、露店のフルーツの彩が目を引くもの。都市の光と影を象徴するような作品と、なにげない日々の一瞬が並ぶ。タコ揚げをする男性、ネールショップでポーズをとる女性、電柱高くに作業する人……

 子どもが向けるレンズに返される笑顔が市民の顔として展示される。スラムから子どもたち一行が展示を見に来ると、作品が大々的に披露されて誇らしげ。自分たちの写真に誰それが写した自分たちの街。子どもも付き添いの大人も歓声をあげていました。日本ではあまり耳にしない“シチズンシップ”という言葉と、ブラジルでのその取り組みには目を見張るものがありました。

*写真上2枚:ブラジル・リオで開催された大規模な展示会  2015年

あらたな一歩へ

プロジェクトを始めた2000年からこれまで、
カメラはフィルムからデジタルへ、
そして、スマホにSNSの普及、
さらに世界と瞬時につながる時代へと
急速に変化しました。

写真と動画の垣根も低くなり、
世界が劇的に変わるさなかにあって、
活動のあり方を問うことになる。

模索しつつ一歩を踏み出そうとしたとき、
新型コロナウィルス感染が発生、動きが止まった。
さらに、ウクライナ侵攻。
まさか、この時代になって、
ひと昔のような戦争が起きるなんて… 。

ただ、ずっと立ち止まっているわけにはいきません。
紛争直後の東ティモール、リオのスラムをはじめ、
世界で出会った子どもたちの目の輝き。
そこに未来の希望を重ね、歩みを進めます。